八ヶ岳の秋は鹿の鳴き声にのって@2008
久しぶりに行った川上は山々に秋の色がつきはじめていた。ナナカマドの実も葉も赤くなり、ダンコウバイも黄を増して、もみじも赤や黄色に変わり始めていた。
遠くで鹿の鳴き声も秋らしく感じられ、ヒューンと鳴けば、百人一首のあの歌が思い出される。
「奥山にもみじ踏み分け鳴く鹿の声 聞くときぞ 秋はかなしき 」 猿丸大夫
子どもたちとお正月にそのゲームをするときには、その作者の後に(猿丸大夫、ハゲツルケ)と言って、絵を思い出せるようにと、取り易くしてあげたっけ。遠い昔もあっという間に現実になる。エッツ誰のことですか。
山小屋に行ったときの健康維持のための散歩を芳州さんとココとした。このところ、暗いニュースが多い。株や景気というよりは、同世代の人の死だ。以前「Bucket list」について書いたがそういうことを意識せざるをえない年令になっている。私は最近シミも取ってかなり若返ったが、現実は厳しい年令になっているらしいのだ。私たちはそれを払拭するほどの笑いと親父ギャグで、高原の湖の湖面を波立たせてきた。あまりにいろいろ話して、よく消化して、もう忘れた。持って行ったオムスビもコロリンとしそうだった。
2日間の滞在だったので、我がクラインガルテンの作物の整理に追われた。ところがなんと、2日目の朝、少なくなったルッコラを朝食のサラダ用に採りに行ってビックリ! 偶蹄目の足跡が無数にある。前日雑草が生い茂っていたが採らなかったのが幸いしていた。その雑草を食べていた。鹿は首を低くするのが辛いんだ。ところでいつ来たのだろう! ココちゃん! いつもささみをあげているんだから、教えなさいよ!と言ったって無理。
また芳州さんと畑の回りのフェンスの針金を高くする。そういえば、庭側の花壇の菊が花を摘まれていたし、畑のまわりに絡み付いているカボチャの茎が齧られていた。やはり来ているんだ! 鹿は! 帰り間際の夕暮れに、青々とした春菊や、緑濃いター菜、細い大根、きっこの日記にも出ていた紫蘇、イタリアンパセリなどを収穫する。遠くで鹿が鳴いている。ヒューン、ヒューン。
私は赤カブを見て摘む。作物を採った後に土を鍬で寄せる。隣のログハウスの軒にできたスズメバチが収穫した青菜の葉の上の青虫を食べに飛び交っている。もうすぐ来る冬を感じている。私もスズメバチを気にせず、ルッコラの根をそっと引き抜く。横浜のマンションのベランダに移植するからだ。また、春菊の根をそっと引き抜く。それも、移植したい。地面を見続けて腰が痛い。腰を伸ばし、立ち上がりながら夕日を見る。美しい夕日だ。だから長野が好きなんだ。また近くで鹿が鳴く。ヒューン、ヒューン。ヒューン、ヒューン!
私はもう猿丸大夫の句は思い浮かばない。小鹿物語の母さんだ。早く鹿を撃ちなさい!鹿がもっとそばで鳴いた。ヒューン、ヒューン もう、怖い、なんだか混乱してきた!シェ-ン、カンバーック! ハイヨー、シルバー! インデイアンうそ言わない! バキュン、バキューン
「恵子!もう帰る仕度しなさい!」 芳州ちゃんの声に我に返ったKeicocoだったのです。 THE ENDもしくはFINです。
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