千早茜「しろがねの葉」を読んでからの「男ともだち」
2023年春に川上の図書館に久しぶりに行き、168回直木賞をとった千早茜の「しろがねの葉」を読んだ。大河長編で1人の少女の一生を描いていて夢中で読んだ。その後また図書館に行き千早茜のコーナーで今度は「男ともだち」を選んだ。読み始めは前出とはかなり違う内容であると思ったが小説の面白さは体験できない喜びや悲しみを作者の掌の上で弄ばれることなので、それに従って読んでいた。
「しろがねの葉」は貧村に生まれた少女ウメが親と一緒に村を出る時から生き別れになり、山や川を歩き、走り続けて石見銀山の天才山師に助けられ、自らも坑道で働きながら、女であることによる宿命を跳ね除けまた悲しくたくましく受け入れて強く生きることが描かれている。
「男ともだち」は「しろがねの葉」より8年前の千早茜の作品だ。[ 関係の冷めた恋人と同棲し、遊び人の医者と時々逢引き、仕事は順調なのに本当に描きたかったことを見失っている。京都在住のイラストレーター神名葵29才の熱くてダークな疾走する日常]と本の説明。ここに彼女にとっての大切な男ハセオが抜けている。ハセオは大学時代からの男ともだちで葵には大切な人だ。だが性的な繋がりはない。ハセオは遊び人の医者に葵との関係に釘を刺し、その辺りから葵の人生が変化してくる。感性が合うのだろうけど、一緒に人生を歩むような気配はなく、彼の予言めいた言葉で葵の人生に光が射しはじめる。葵が建築家の翔也の画廊で作品展をする。
物語形式の複数の絵を展示する。
『 誰よりも早く走ろうとした少女の話だ。花も摘まず、身も飾らず、少女はひたすら走る。昼は鳥と競い合い。夜は流れ星を追いかけて走る。足が血塗れになるのも厭わず走る。
数年が経ち、少女は年頃の娘になる。それでも求婚者を蹴散らし、美しい服を引き裂き、少女は走る。
小さな村から出ることを夢見て、小鳥を飼う娘たちに背を向けて、ただただ愚直に走る。少女は翼に憧れない。自らの足を信じている。やがて流れる髪はたてがみに、硬い足の皮は蹄となり、少女は馬となって駆けていく。
どこまでもどこまでも。』
このイラスト絵画の作品を想像し「しろがねの葉」のウメに似ていると思った。ひらすら走ってウメは銀山の天才山師善兵衛に会えたのだから。善兵衛がウメの慕い続ける男でもあったのだから。「しろがねの葉」は「男ともだち」の最終章に出てくる展覧会の絵のイメージの中にある少女を8年越しで愛しく昇華させたのではないだろうか? というのが私の最近考え続けていた妄想で、作者には迷惑な話かもしれないが、私の読後感としてここに書いておきたいのです。
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