良い文學作品に出会えると、無性にその感想を書きたくなるが、いざ書こうと考えると、自分の語彙や考え方が浅薄なのに気づき、読後感などは書くまいという考えにたどり着いてしまう。今回の「アルケミスト・夢を旅した少年」は始めにテレビで見たドラマ「みおつくし料理帖」の登場人物の侍役、森山未來が感動した本としてウィキペデイアに書いてあり、その彼の演技に魅かれたので読むことにした。そして感想を恥ずかしげもなく書き始めている。
少年サンチャゴは旅をしたいために父の望む神父への道を絶って羊飼いになることを決めた。彼を祝福してくれた父は自分も旅をしたいという希望があった。題名のアルケミストとは錬金術師だ。非金属を金に変え、不老不死の万能薬を作り出す人の事だ。主人公の少年がこの旅の中で最後に出会う人物だ。
旅の始めに羊の群れを連れてアンダルシアの朽ち果てた教会に着いたところから物語は始まる。教会で寝ていると2回も同じ夢を見た。1人の子供がエジプトのピラミッドに来れば隠された宝物を発見できると言い、正確な場所を教えようとするとたん、目が覚める。
その意味を知りたいと考えた少年は最初にジプシーの老女に占ってもらう。「まずエジプトのピラミッドに行かねばならない。そこで宝物を見つけてお金持ちになる」と言う。夢が叶い宝物を得たらその十分の一をあげるという約束をする。
彼は本が友達だった。一冊読み終わるとまた新しく市場で買ってくる。その本を読んでいると1人の老人が来た。老人はじつはある国の王様だった。「人生の全てには代価が必要だ。前兆の語る言葉をわすれてはいけない。運命に最後まで従うことを忘れずに。」そして旅の助けにと白と黒の石をくれた。
老人と別れてタンジェの街で知ったガイドに大切な羊を売った代金を盗まれてしまう。彼は無一文になった。人通りの無い坂道のてっぺんのガラス店で働くことになり、エジプトに行くためのお金を稼ぐことに夢中になった。
クリスタル商人は敬虔なイスラム教徒だった。仕事で成功していたがメッカには行っていなかった。メッカ巡礼で夢が実現してしまうと生きていく理由がなくなってしまうと思い、旅をしなかった。新しいことにも挑戦できなかった。少年は雇われてから少しずつ彼に新しいことを提案して店を再び大きくした。一年が経ち、エジプトへの旅費も貯まり、商人と別れ砂漠を旅するキャラバンに入った。
そこで錬金術師を夢見るイギリス人の読書家に会う。本ばかり読んで砂漠から学ぼうとはしない男だった。前兆については知っていて彼と友達になった。またこの後で錬金術師に出会う。
でもこの先を話したら面白くなくなるのでここまでにしよう。人生で成功したかったらこの本は絶対に読まないといけない。特に若い人にお薦めだ。
本編の中で1番心にきた箇所がある。
「人は人生の早い時期に生まれてきた理由を知るのだよ」
「少年は昔、彼のおじいさんが、蝶はよい前兆だと言ったことを思い出した。こおろぎも、期待を持つことも、とかげも、四葉のクローバーもよい前兆だった。」
実はたまたま、私事で恐縮ではありますが明日は私たち夫婦の出会いの記念日です。
私にとって人生の成功への「前兆」ともいうべき時が21歳でした。21歳で知り合ったその日は生まれる前から「書かれていること」だったに違いない。そして今病気の彼を人生の相棒として受け入れていくことも「書かれていること」(運命)として感じている。明日で52年、夢を旅したサンチャゴのように、私も主人も多分いつも心に何かを問いながら進んできた気がする。
全編に「マクトゥーブ」「書かれていること(運命)」「前兆を大切に」などの言葉が抽象化されて散りばめられている。それらを自分自身に当てはめてこの年齢でも真剣に考えればこの物語を理解でき、私も自分の宝を探せるかもしれない。
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